医師インタビュー

寿光会中央病院
可知 直剛 先生

寿光会中央病院 可知 直剛 先生

住所 〒470-0224 みよし市三好町石畑5

電話 TEL: 0561-32-1935

今回のドクターズコラムは、医療法人寿光会「寿光会中央病院」歯科医の可知直剛先生にインタビューいたしました。認知症や障がい者の患者さんへの歯科医としての対応や治療に対する考えを聞かせていただきました。

Q1

可知先生が歯科医を志したきっかけについて教えてください。

私の実家は豊橋で約600床ある精神科の病院を営んでいます。父親は精神科医で祖父は産科医、姉も歯科医で、親戚もほとんどが医者等の医療関係者という医療家系です。そんな環境で生まれ育ったので、生まれた時から「お前は医者になりなさい」とずっと言われていました。

私は医者になるつもりはなかったのですが、父親が私が大学入学前に亡くなってしまいました。父親が集中治療室に入っている時に「何でもいいから医者になってくれ。」と苦しそうな表情の中言われたのは今でも忘れません。そこから勉強を始めて歯科大に進学し今に至ります。本来であれば実家の家業を継ぐのが筋なのですが、父が亡くなった時病院を継承出来るのは、当時既に歯科医師免許を持っていた姉だけでした。そのため実家の病院は姉に任せて、私は自由に勤務医をしています。

Q2

もしもドクターになっていなかったら、どんな職業に就いていましたか?

中学や高校の時の卒業文集には必ず「政治家になる」と書いていました。当時は湾岸戦争や消費税の導入といった時代背景があり、総理大臣も頻繁に代わっており「この国を変えたい」と本気で考えたものです。また父親も代議士の方の後援会会長をしていましたし、そういった議員の先生のお話を小さなころから聞かせてもらっていました。

今も私は歯科医師会や保険医協会の会員をしていますが、そちらで「この先生を推してほしい」ということもあります。しかし自分の政治心情と合致しないこともありますし、出来れば今でも自分がやりたいと思うこともあります(笑)。

Q3

可知先生が寿光会で勤務される前の経歴を教えてください。

私は岐阜県にある朝日大学を卒業後、愛知学院大学病院で研修をしました。その後母校に戻り、様々な障害を持っている方を専門に診る障害者歯科に入局しました。医療、研究、教育に5年間無給で従事し、そこで障害者歯科の認定医を習得しました。その後姫路の精神科病院に移りましたが、医局人事や友人に頼まれることもあり、岡山、神奈川、東京、浜松の病院で勤務していました。

その間に高齢者歯科の専門医や摂食嚥下の認定士を取得しました。私が結婚をするのとほぼ同時期に、寿光会中央病院から「高齢者や障害を持つ方の診療と、嚥下を専門で診療してほしい」という話を頂きました。私も嚥下の勉強をもっとしていきたいという思いもあり、ご縁をいただき寿光会中央病院で働いています。

Q4

寿光会中央病院で診察する患者さんはどういった方が多いのでしょうか?

来院される患者さんの割合は外来からの患者さんが1/3、入院患者患者さんが1/3、施設での訪問診療が1/3位の感じです。ただ、ここ2年間はコロナの影響もあって、施設の患者さんを寿光会中央病院に連れて行くことも訪問に行く事も出来ませんでした。また外来の患者さんも病院で感染してしまうというイメージがあるのか敬遠されてしまうこともありました。

歯科は“予防歯科”という考えが非常に大切です。痛くなったから行くのではなく、健康診断のつもりで気軽に来てもらえたらと思います。

Q5

寿光会中央病院の歯科の特徴はありますか?

一番の特徴は何らかの疾患(多いのは認知症や発達障害、心疾患、脳血管疾患など)を持っている方や、車いすでないと移動出来ない方、意思疎通の困難な患者さんでも診療するところです。「他の医療機関で診てもらえなかったけど、寿光会中央病院では診てもらえる」という評判がこの地域で広まってきており、それがきっかけで来院される方が多くいます。

入院している患者さんは今までしっかりとした歯科治療を受けることが出来なかった方や、口から物を食べることが出来ないという方が多いです。そういう方に対して歯周治療、虫歯の治療、義歯の作成や調整、嚥下に関する診察や、口腔ケアなどを行っています。また入院中の患者さんを治療する際、ベッドから移動できない方もいらっしゃいます。そのような患者さんはベッドごと歯科の治療室まで移動し、治療をすることが出来るのも当院の特徴です。

また関連施設に訪問し、口腔検診を行い、口腔ケアや治療を行うこともしています。その場では治療できないと判断した場合は病院に来てもらい、治療をすることが出来る所も当グループの特徴だと思います。

Q6

認知症や障害者の方への歯科と、一般的な歯科との違いについて教えてください。

意思疎通が出来るかどうかが一番の違いだと思います。意思疎通が出来ない、あるいは難しい患者さんに対しては安心して治療が出来るようにどうアプローチするかを考えなくてはいけません。また一般の歯医者さんでは「まず口を診る」という場合が多いかと思いますが、当院では最初に患者さんの“既往歴”と“現病歴”、“服薬状況”等の全身状態を確認します。それらを確認した上で、初めて口の中を診るようにしています。

Q7

訪問歯科について教えてください。

訪問歯科は患者さんが移動することが難しい場合におこないますが、訪問歯科はあくまでも診察することや口腔ケアを行うことが中心になります。入れ歯の調整やちょっとした虫歯の治療、安全な抜歯程度であれば施設で行います。

私が大学病院にいた時の話ですが、訪問診療だけでは対応できない口腔状態であったのに、ずっと訪問歯科だけを続けていた歯科医院がありました。結果手に負えなり、大学病院に紹介状付きで患者さんを送ってこられたことがありました。そのようなケースを何度も経験したため、私は訪問歯科診療で対応できる限界を見極めることが大切だと思っています。

ただ、高齢化社会になっていくのは避けられない現状にあります。やはり動けない、動かせない患者さんはこれからどんどん増加していきますから、それに伴って訪問歯科診療自体は増えていくと思います。ですからまずは訪問歯科診療で一度診てもらうということが大切になると思います。歯医者にかかりたいけど”行けない”のではなく、訪問歯科診療というものがあることを知っていただき、連絡していただき、訪問し、診察した上でどのように治療するのか判断して、本人様やご家族様に説明する事が大切だと思います。

Q8

患者さんと接する時に心掛けていることについて教えてください。

「安心していただくこと」を第一にしています。

認知症や発達障害の患者さんは警戒心が強く、「ここに来て何をされるのだろう?」と心配する方がほとんどです。その為、患者さんと同じ目線で目を合わせて「こんにちは」という挨拶をすることから始めることを心掛けています。いきなり口を開けるのではなく、例えば手や肩のマッサージをしながら安心してもらって「ここは歯医者さんだから今から歯を診ますね」と伝え、器具を見せて実際に少し触ってもらって「痛くないですよ~」と言いながら口の中を診ていきます。ただそれでも意思疎通が難しい方もいるので、いきなり鏡を口に入れるような事はしません。驚いて鏡を噛んでしまい、割れた鏡の破片で負傷してしまうといった場合もあるため、そういった危険が無いようにしています。

指を口腔内に入れるときも、指を噛まれる危険がありますので嚙まれないように工夫をしています。研修医だったころ思い切り噛まれた経験があります(笑)。また診療の際に激しく体や頭を動かす患者さんもいますので、必ず1人で行うのではなくスタッフに協力してもらいながら治療をしています。

診療を行う前には「抑制しながら治療することもあります」とご家族様に同意を取ってから治療をしています。

治療する際に唾を吐きかけてくる患者さんもたまにいますので、事前に既往歴を確認して感染症の有無も確認しています。

Q9

高齢者に多い歯の疾患や、歯の病気について教えてください。

高齢者に多い歯の病気は「歯周病」、昔でいう「歯槽膿漏」です。歯がグラグラになり「歯が無い」または「噛めない」という患者さんが大勢います。もちろん重度の虫歯の患者さんもいますし、あとは飲み込みの状態が悪く、誤嚥を繰り返し誤嚥性肺炎になる方もいます。そのような患者さんに対しては、鼻からファイバーを入れて喉の動きを診る検査をします。検査の結果から食事の形態を工夫したり、舌の動きが悪い方には動きを良くするための運動などのアドバイスをしています。

他には高齢になるにつれ、前癌病変である白板症や進行して舌癌になる方もいます。これを見逃すと大変ですので必ず歯牙だけではなく、舌や頬粘膜なども診るようにしています。また過去に脳梗塞などに罹患し、脳血管障害を起こしている患者さんのケースでは手が不自由で歯磨き自体が出来なかったり、自分では磨いているつもりでも磨けていない場合もあります。そういった患者さんの口腔ケアは特にしっかりとやっていきたいと思っています。

また高齢者の方の歯科治療は他の科の治療にも通ずるものもあります。例えばリハビリを行う場合など力を入れる時には歯を噛みしめます。歯がないと踏ん張ることもできないのです。「入れ歯がなくても食べられるから大丈夫」とたま言われる方もいますが、食べる事だけではなく、踏ん張るときや力を入れる時は必ず歯を噛みしめますから、「ご自身の歯でも入れ歯でもあることが大切ですよ」ということを必ず説明するようにしています。

一言で嚥下といっても範囲は非常に広く、嚥下の診断や治療ははかなり難しいものです。原因1つ見るにしても、脳梗塞による麻痺が原因の患者さんや、嚥下機能自体が弱くなってきている患者さん、服用している薬の副作用によっても起こります。そのような患者さんに対して、口腔内だけから診断や治療をすることはしません。

ここでは入院患者さんの例のお話しをします。

入院している高齢者の患者さんで嚥下状態が悪くなってしまっている場合、「お口から食事をしたい」という患者さんやご家族さんの希望と、嚥下状態を心配して「経管栄養や胃瘻が良い」と思っている主治医の意見が食い違ってしまうことがあります。特に当病院の中であれば、ここで人生の最後を迎える患者さんもいらっしゃいますので、最後に「どうしても食べたい、飲みたい」という希望が出る場合があります。しかし主治医からしてみれば誤嚥を起こしてしまう可能性があるので許可出来ません。そこで私たちが歯科の立場で検査を行い、誤嚥を起こしてしまう可能性を精査し、できるだけ患者さんの希望を叶えてあげるように努めています。

嚥下の検査と聞くと、内視鏡で検査をするイメージする方が多いかもしれませんが、その前に自宅でも出来るテストがいくつかあります。テストをしてみて異常があれば病院にお越しください。

①30秒間に唾を3回飲み込む事が出来るかどうか

②30ccの水を飲み込むときにむせるかの確認

③ゼリーやプリンなどを食べてもらい嚥下後に口の中にどれだけ残っているかをチェックする

上記3つのテストなどがあります。ただし少しでも危ないと感じた場合は簡易テストを行わず来院されることをお勧めします。

またそういった嚥下に関する基本的なことを簡単に分かりやすく講義をさせ頂くことも出来ますので、もしどこかの施設さん等で嚥下に関して学びたい方がいましたら、ぜひ相談して頂きたいと思います。

当院にはお口の中の状態が大変悪くなってから来院される患者さんが多くいます。そのような状態の患者さんを半年や1年以上かけて治療していきます。意思疎通の難しい患者さんでも信頼関係を築けますし、なにより治療が終わった時に、綺麗になったお口の中を見て凄く素敵な笑顔で喜んでくださることが私たちにとっての大きな喜びだと思っています。

まずは『諦めないでほしい、知ってほしい』ということです。例えば内科さんだと訪問診療で薬を出してもらって治療してもらえるとイメージがしやすいと思います。歯科の場合だと、歯医者さんに連れて行かないと診てもらえない、治療出来ないと思っている患者さんが結構多いんです。しかし自身で行くのが難しい、あるいはご家族の方が連れていくことは厳しいと思っている場合でも、歯科でも訪問で診ることは可能です。

また認知症などで激しく暴れてしまう方やコミュニケーションを取るのが難しい方は、一般の医院さんに連れて行っても診療を断られてしまうケースや露骨に嫌な態度をとられてしまう場合が残念ながらある様です。そういう患者さんに対しても、当院では受け入れるようにしています。最大限できる診療を行っていきますので諦めずにまず連絡いただければ幸いです。

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